超凡人サラリーマンのためのビジネス書ベスト100

意識が低すぎず高すぎず、大きすぎず小さすぎず普通の会社に勤めるサラリーマンが、大量に読んだビジネス書の中から本当に普通の人でも役に立つ、みんなが知らない意外な百冊を紹介していきます。

他のコンサル本を不要にする1冊 バーバラ・ミント『考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則 』

バーバラ・ミント『考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則 』はとんでもない本だった。

「ロジカルに書く技術=ピラミッド原則」から始めて、色んなコンサル本の大元にあるあらゆる考えが「ロジカルに書くこと」から発生していくことを見せる、数学書のような美しさを持った本だ。ただし、無味乾燥ではない。(逆に、ロジカルシンキングを図解すると称する多くの本は天下り的にこんな形であるべきだと示すだけで、無味乾燥だ)「書く」ことはコミュニケーションだから、ある種の心理学的洞察も含んでいる。

一つの原則からはじめて、すべてを語り尽くすということは、抽象的だということでもある。

この記事はその美しさと、コンサルの技術の目録(それがそのまま本の目次になっているのだ)を解説するとともに、逆にその極度に抽象的な各部をより具体的に噛み砕いた本を紹介することで、コンサル的な技術について、抽象、具体どちらから入門したい人にも応える記事にしたいと思っている。

 

コンサル本とは?

 

 

コンサル本……それは主にマッキンゼー・BCG・カーニーなど外資系戦略コンサルの出身者が書く本の総称だ。ビジネス書の分野では、大前研一の『企業参謀』にはじまり、定期的にベストセラーが出るジャンルである。しかし、個人的には、内容は雑多で、結局他のビジネス成功者の本と大差なく、その人の経験や考えを書いているだけではないか、と思う事が多かった。

しかし、この『考える技術・書く技術』はそれらの雑多に見える本に一貫性を持たせる本だ。

 

あらゆる書き方本の根本かつ、より詳細な内容が第一部「書く技術」にある

 

序盤は徹底して、文章の書き方の本だ。ここで言われるのは誰もが聞いたことがある「結論から書け」である。「結論にはサポートを複数つけろ」である。

しかし、この本の異常性は、結論もロジックも書いているときには自明でないという前提を置いていることにある。他の書き方本は、結論や相手をどうしたいかは自明であり、その先にMECEやロジックツリーが出てくるが、そうではない。

現実では、人はごちゃごちゃした文章を書いてしまい、結論をトップにもってこいと言われても適切な結論を選べない。選べないからこのようにするのだということを異常な執拗性を持って解説していくのがバーバラ・ミントである。

以下のようなテクニックが提案され、しかもそれぞれの悪い例をどうリライトしていくかという具体例がついている。

複数の提案やアイディアをグループ化していき、時系列や論理関係で整理することで、議論の柱の粒度を揃えること、

もう一つは白紙の結論を避けよという形で、結論は必ずサポートと内実のある関係をもつように強制するやり方だ。

また、サポートと結論の関係についても、帰納的な関係が望ましいとアドバイスし、演繹的な(この本では演繹的というのは論理学や哲学とは異なる意味で使われている。三段論法に似た形式の、複数の条件から結論が導かれるものをすべて演繹と呼んでいる。思考の順序に従って書けばすべて演繹的となる)サポートを帰納的にリライトする例も出している。

ここまで徹底した本を私は読んだことがないし、これこそが本当の「考える技術」ではないだろうか。

本書では「ボトムアップ・アプローチ」とこれを呼んでいて、結論から書き始める「トップダウン・アプローチ」と並ぶ手法としているほど、本書では考えるときの「もやもや」を重視しているのだ。

現実の、ビジネス書に助けを求めるような「考える場面」は、ボトムアップ・アプローチではないだろうか? 

考える場面で、結論が先にあってサポートするというのは、直感的に結論が正しいような場面だけで、本質的には考えることを必要としない。単に誰かを説得するために文書に起こしているだけだ。

直感的にどうであるかわからないようなときこそ「考える」時間であり、図を描き、うんうん唸り、なにか情報が足りないのではないかと悩み、ビジネス書に助けを求めるのである。そうしたときに、MECEとかロジックツリーといったきれいな図を見ても助けにならない。そういう経験に対して、ガツンとくるのがバーバラ・ミントの「書く技術」=「考える技術」という主張である。

『仮説思考』や『イシューからはじめよ』は第三部の「問題解決の技術」に出ている

コンサル本の筆頭として私が思い浮かべるのはこの2冊だ。『仮説思考』はamazonで星1000以上、『イシュー』に至っては5000以上と、ベストセラーであることが伺える。

これらの本の共通する主張は、「最初に仮説を作り、それを検証するようにしてデータを集めよ」であるが、このことをバーバラ・ミントは1996年にはっきり主張している。

 

 

これは、結論から書き出せること(トップダウン・アプローチ)とは違う。検証出来る形にするために、仮説を作り、仮説検証のPDCAサイクルを回して、よりより結論を得るということだ。

このことにバーバラ・ミントは多くの紙幅を割かないが、その語るところは多い。

なぜならここまでに延々いろいろな議論をロジカルに整理するにはどうしたらよいか?という「書く技術」を述べてきているため、読者には、仮説なしで事実を集めたときの混乱した議論(そのデメリット)がありありと浮かぶし、どんどんファクトが重なってきたときに、結論が書き換えられていく様子も目に浮かぶ。

仮説検証して考えをブラッシュアップしていくという、高学歴の理系にしか直ちにはピンとこないようなPDCAのプロセスを、すでにビジネス文書を整理するという形ですべての読者にじっくり体験させていることで、この主張はすっきりと読者に入ってくる。

具体的な仮説検証の技術は、もちろん他の本に譲るべきだろう。

 

統計の扱いなどを含めたテクニカルなことは例えばこのような本に書かれている。いわゆる問題解決本というジャンルだ。

しかし、そもそも仮説検証のPDCAということをやったことがない人間にとって、バーバラ・ミントが先に読むべき本として来るだろうと私のようなど文系人間は思うのだ。

『問題解決力を高める「推論」の技術』は第五章及び追補Aで扱われている

 

 

この本には、古い哲学風な奇妙な論理学の議論も含まれている。私は素人として哲学を読むにすぎないが、S ist Pの分析から始まるカント哲学を思わせた。(サポートを分類するために、主部と述部の共通と相違点について考えるのだ)

exphenomenologist.blog.fc2.com

私より遥かに詳しそうな方の感想がここにある。演繹と帰納の言葉使いについては、この本の中の特別用語であるという風に扱った方が良いと思う。

それでも、議論の構造として「帰納」を多く用いたほうがよいというアドバイスは非常に有益だと思うし、主部と述部に分けて共通するものをくくっていく処理も現実的だと思う。

空雨傘は行動に移せる結論になっているかという話に対応

 

コンサルの使うロジックのパターンの一つ、空雨傘構造は傘こそがキモになっているという話がここに出ている。

これをバーバラ・ミントの言葉で言えば、空雨はscqのsc(状況と複雑化)、あるいはr1とr2(理想とそことのギャップ)であり、傘がキーメッセージにあたる。

空雨傘と言われてもだから何なのだろう?と思ったことはないだろうが。バーバラ・ミントではscは読み手にとっての既知情報であることを述べているから、空雨の内容は限定される。

ない話もある。ラテラルシンキングやシステム思考、なぜなぜ分析の話はあまりない

 

 

これはマッキンゼーとボスコン両方にいた方の本だ。コンサル本のありがちなテーマ全体を取り扱っているが、バーバラ・ミントにはあまりない視点として、ラテラルシンキングやなぜなぜ分析の話が出てくる。

これはトップダウンアプローチでより重視されるところだと思う。(meceの話はミント本にも出てくるが)